―――   一護×やちる 著者:錫夜様   ―――



一人の少女の声・・・。

「…剣ちゃん…剣ちゃん起きてよぅ…」
ひたすら彼の名を呼ぶ声。だが、それに応える声は無い。
「剣…ちゃ…ん」
とどまる事の無い肩からの出血も。薄れ行く霊圧の乏しさも。生気の見られない彼の顔も。
…全てが剣八の死を…永久の別れを連想させるのだ。

「やだよぅ…剣ちゃん…」
堪らずやちるは剣八に抱き付く。乾き切った唇に口付ける。
「………嫌…だ…」
…息をしていない…。

「…やだ…やだよ剣ちゃん…死なないで…」
頬が濡れる感触があった。ソラを仰ぐ。
雨なんか降ってないのに…。
留まる事無く流れ落ちる雫は。目からは大粒の涙が零れ落ちていた。

何年も…何十年も…泣いた事なんてなかったのに…。

…剣ちゃんと会ってからは泣いた事なんてなかったのに…。

そっか…。雨降ってるんだね…。
…私の心の中でいっぱい…。

「…誰か…剣ちゃんを……助けて…!」

【…誰か…剣ちゃんを……助けて…!】
「……………この…声は…」

ゆっくりと目を開けてみた。
視界がぼやけて回って体は鉄みたいに重みぃし。
気分は糞悪ぃけど…。

俺にはもう1つやるべきことがあるみたいだな…。

「…夜…一さん…」
喉の奥から声を絞り出す。始め誰の声か分からない程…弱々しくて…。自分が情けなくて…。
「一護、目が覚めたか」
俺の治療に専念しながら顔だけこちらに向けた。酷く心配そうな顔が俺を覗く。
「…隊長格とはあれほど戦うなと言うたのに…おまけにあの更木を倒してしまうとは…恐ろしい奴じゃ…」
「…夜一…サン…」
「もう喋るな一護。まだ傷は塞がっていな…」
「夜一さん!」

力の限り声を張り上げて。まるで猫が鳴いたような…そんな声だったけど。ハッキリ伝わっただろう。

「助けて欲しい…奴がいるんだ」
俺は立ち上がった。生きた心地はしない。何故立てたのかも分からない程。胸からは血が滴り落ちているみたいだ。

彼女の傷に比べれば…こんな傷は…。
「一護!何をしておる!治療はまだ途中なのじゃぞ!?」
「更木を…あいつを助けてやってくれ…」
「何を言っておるのだ一護!まず自分の身を心…」
「俺は!」

「俺は…自分の同類を作る為に刀を抜いたわけじゃ…ないんだ…」

霊絡を頼りに進む。一護は気付いていた。
…もう一つの消えかける存在を。

視界が空ける。彼らは見た。
自分の霊力の全てを注ぐ少女の姿を。
愛する男に全てを注ぐ少女の姿を…。

「やめんか草鹿!御主はもう限界じゃ!」
少女は止めない。いや、一護達に気付いていないのだろうだろう。
彼女は必死だったのだ。
…世界の崩壊を防ぐために…。

自分の全てを失わないように。

「…やちるって言ったっけな…。俺は…お前を救いに来たんだ…」
存在が霞む。少女が消えてしまう。
昔の自分の様に。

「…俺の全てを…賭けて…救ってやるから…」
覆う様に背中から彼女を抱く。
そうして彼女に全ての力を注いだ。


彼女が消えてしまわぬように。

彼女の世界を救うために。





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