―――   乱菊SS  著者:570様   ―――



雛森桃への面会を終え、松本乱菊は独り部屋に戻ると棚の奥から煙管を引っ張り出した。
それは彼女が昔、藍染惣右介と別れた後に半ば自暴自棄になり手を出したものだが、
高い金を出して揃えたにもかかわらずその「美味さ」というものが分かる前にしまい込んだものだった。

 やっぱり不味い。

今、多少なら味というものが分かるだろうかと思い吸ってみたが感想は以前と変わらず。
これはこの後しまい込まれ、もう日の目を見ることもなくなるのだが、
その未来は今の彼女の意識下にはまだまったく存在しない。

彼女の意識を捕らえて放さないのは、
かつての恋人が最期に残した、先ほど面会した雛森への一通の手紙である。
書き急いだのだろう、普段の彼の字の丁寧さが消え、何処か違和感を覚える。

それは先ほど雛森へ渡した手紙と一緒に置いてあったものだが、松本は迷いもなく封を切り、読んだ。

「 自分がこれほどサイテーな女だなんて知らなかったわ。 」

独りごち、その手紙をくしゃりと握りつぶす。

 「 まー、そんな大した内容も書いてなかったし、
   あの人が本当に伝えたいのは渡した方の手紙に全部書いてあるだろうからいいんじゃない? 」

灰皿の上でその手紙は火をつけられ、すぐに燃え尽きた。



 「 愛の言葉と謝罪とで埋められた恋文なんか、見ないほうがいいのよ。
   二通とも破棄されることより、一通でも手元に来たんだからいいじゃない。 」

泣き腫らした雛森の顔がちらつき、松本はそれをかき消すかのように煙管に口をつけた。



 ―――やっぱり不味いわ、

松本の頬を、一筋だけ涙が伝った。

−糸冬−






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