―――   ケイタツ 著者:502様   ―――



ある夜の出来事・・・・・

有沢竜貴。15歳。
身長155p。体重は――秘密。7月17日生。血液型A型。
空手部所属。現在日本で二番目に強い女子高生。
男と付き合った経験はなし。
一度も…ナシ。


だって、仕方ないじゃない。今まで人を本気で好きになったこと、一度もない。
幼い頃から空手を習っていたアタシは、喧嘩で男に負けたことがない。
みんなよわっちいったらありゃしない。どんなに強そうな男でも、一発ガツンと拳を振るえば、あっという間に逃げていく。
あ、今はそんな事しないよ?大体男と喧嘩する機会自体ないしね。
でも―――…そう。昔から強かったアタシはだから。恋人の条件では絶対に譲れないものが有る。
…ここまで言えば、解るよね?
つまり。アタシより強いこと。
それが、アタシの未来の恋人の絶対必要十分条件。やっぱり恋人には頼りたいし、守られたい。
アタシにだってそうゆう乙女な部分、あったりするんだよねー。
しかし現実は厳しい。何せアタシは日本で二番目に強い女子高校生。
……、アタシより強い奴、いるのかっっ!!?
そんな事を考えていると。
「たつきちゃ〜ん、帰ろぉ〜」
アタシの可愛い大親友、ヒメがこっちにやってきた。

「今日の数学難しかったね〜!私全然わかんなかったよ〜」
机ごしにヒメが、パタパタと両手を振りながら話す。そんな事いってこの子、超頭いいんだよね。
そういえば、ヒメは一護が好きだ。――黒崎一護。私の幼馴染。
派手なオレンジの頭(地毛)に、無愛想なタレ目。昔はそんな事なかったんだけど。
一護は…うん、アタシより強いかも。でもねー。そういう対象としては見れないや。
何せ洟垂れがきんちょの頃からの付き合い。今更男としては見れない。ヒメもいるし。
それに、――最近アイツ、転入して来たばっかの美少女、朽木さんと仲がいい。
ほら、今も。二人でなんか話し込んでる。朽木さんがポケットから取り出した携帯を一護に見せて……、そのままそそくさと教室を出て行った。もちろん二人で。
やっぱり二人が付き合ってるって噂は本トなのかなー。
朽木さんはマジでかわいい。ていうかキレイ。
天然だったりするのに、何処となく気品が漂っている。ヒメもかわいいけど、二人の可愛いは種類が異なる。
一護が朽木さんみたいなのが好みだったら、ヒメはちょっと、不利だなぁ…。
そのまま何となくクラスを見回すと、意識してるせいか男子が目に付く。
小島水色―…無理。アイツ女の子とっかえひっかえだし。弱そうだし。
茶度泰虎―…………強そうだけど……。大体この人、女に興味とかあんのかな?
浅野啓吾―絶対無理。弱いし、軽くて調子こいてるし、バカだし女好きだし。
てゆうかアタシ、こいつキライ。
「どぉしたのぉ、たつきちゃん。怖い顔してるよぉ?」
「あ…、ごめんごめん、ちょっと考え事。なんでもないよ、かえろっか」
いかんいかん。考えすぎてしかめっ面してたみたいだ。
腑に落ちないといった表情のヒメの手を引いて、アタシは教室を後にした。
当分恋愛には縁がないみたい。―――そう思いながら。

しかし事件は突然起こった。それはある日の土曜日。
その日は両親が帰ってこなくて、だからアタシは夕飯の買出しに出たんだ。
料理、けっこう得意だよ。ロールキャベツとかよく作るかな。
その日も何作ろうかって考えながら、ちょっとゴキゲンで歩いてた。
そしたらさ、角を曲がったところで誰かにドンとぶつかっちゃったんだ。
「あたた…!すみません…」
ぶつけた鼻をさすりながら相手を見ると。金髪を肩まで伸ばした悪人ヅラ。
制服を着てるから、近所の不良高校生といったところか。どうやらなんともタチの悪い相手にぶつかったみたい。
案の定、そいつはアタシにいちゃもんつけてきた。
「おおぃ姉ちゃん、あやまりゃ済むと思ってんのかぁ〜?痛えなぁ〜。肩の骨が折れたみてえだよ〜〜」
…ムカツクよね。たったあれくらいでそんなんなるわけないじゃん。
「そりゃ後愁傷様。お大事にね」
冷たく言ってアタシが立ち去ろうとすると、そいつとその仲間がずいっと立ちはだかる。
「…まだなんか用?」
「あんたなぁ〜、自分が怪我させた相手に向かってその態度はないだろぉ〜?
つべこべ言わずに慰謝料払いな!」
へらへらと笑うそいつらを鼻でフンと笑ってアタシは言った。
「あんたらバカじゃないの?んなありきたりな台詞、今日び何処の誰も使わないつっの。
大体あんたらに支払うお金をアタシは持ち合わせておりませーん」
それを聞いた奴らの顔が、みるみる赤く染まっていく。
「っんのやろ…!!黙って聞いてれば…!!!」
真ん中の男が怒りのこもったこぶしをアタシに振り下ろす。…予想通り。
アタシは体をひねってそれをよけ、男のあごを蹴り上げた!
「おぷっ……!!!」
ギャグみたいなうめき声を上げながら、男はズン…と地面に沈んだ。
ざまあみろっての。たつき様に手を上げるから、こういうことになっちゃうんだぞ。
残った二人は驚いた表情で、地面の男とアタシとを交互に見やる。
そして二人同時に―やけくそ気味に―飛び掛ってきた!
私は一人が放った蹴りをかわし、もう一人のこぶしを腕で止める。そしてそいつのみぞおちに、アタシの渾身の膝を食らわせた。
「ぐ…は…!!」
体をくの字に折り曲げて、そいつはゆっくり崩れ落ちる。
あと一人――!そう思いながら振り向こうとした瞬間。
ゴン!!と鈍い音がした。そのまま視界がぐらりと揺れて。
気づくとアタシは地面に倒れていた。三人目の男が、アタシの後頭部を何かで殴ったようだ。…卑怯だぞ…!!!
「調子に乗りやがって…!!」
肩で息をしながら、最初に倒れた金髪がアタシの襟首を掴み、そのままアタシを軽々と宙に持ち上げた。
「…っく…!!」
「このアマがあああぁぁ〜〜!!!」
殴られる…!そう思って目を瞑った時。
「ちょ…っ、ちょっと待って!!タイム…!タイムタイム!!」
この雰囲気には場違いな、軽い声が割り込んできた。
誰……!?戸惑いながら目を開けると…。
そこには一人の茶髪の少年、浅野ケイゴが立っていた。
……浅野ケイゴぉ!!?
何でコイツがこんなトコいるのよ!と思うと同時に。
一番役に立たなさそうな奴が来た…と、アタシは思ってしまったのだ…。

「お取り込み中すいませんっス!いや、マジで!!」
コンビにか何かの帰りなんだろう、あまり重くなさそうなビニール袋を腕に下げ、浅野は両手で落ち着いて、みたいなポーズをしながら作り笑いでしゃべる。
コイツ、アタシの事助けるつもり!?気持ちは嬉しいけど…。
だけど浅野がこいつらに勝てるなんて、絶対絶対絶対あり得ない。
怪我する前に早く逃げてよ!!アタシは胸中でそう叫んだ。
「なんだぁ〜?てめぇは…」
金髪がアタシを落として浅野の方を向いた。
頭がガンガンして、アタシはなかなか上手く起き上がれない。
「いや、俺コイツの知り合いなんスけど…、なんかしたんですか?コイツ」
「この女いきなりぶつかってきやがって俺たちに喧嘩売ってきたんだよ!!」
金髪が唾を飛ばしながら怒鳴る。いちゃもんつけてきたのはそっちのほうじゃん!!
「慰謝料はらえば済むもんを、俺たちにたてつくからさぁ〜〜」
にやにやしながら右側の赤毛が言った。
「マジすか!?そりゃひどいっすね!!兄さん方に喧嘩売るなんて!…ったくばかだなぁ〜、おまえ何やってんの?」
大げさにため息をつくと、浅野はアタシを半眼で見てきた。
――…何しに来たのよアンタは。アタシはそれを、じろりと睨む。
「あの、すんません、こんなバカでも一応俺の知り合いなんで…。今日は勘弁してもらえないっすかね!」
へこへこと笑いながら、浅野は明るく奴らに提案する。三人の顔色がピクリと変わった。
「あっ、慰謝料なら俺払います!昨日小遣い日だったから、……ほら!」
あたふたしながら財布を取り出し、千円札五枚と小銭が少々。そして中身がそれだけなのを確認させる。
「えっと、他には…あ!ジョイフルの割引券!ミスドの100円券!ついでに早売りジャンプと焼きプリンもつけちゃいます!もってけドロボー!!」
ビニール袋を差し出して、浅野が金髪にそれを持たせる。…情けない…。
「ふん、てめぇはよくわかってるじゃねぇか。それじゃあついでによぉ…」
言うが早いか、三人が浅野を取り囲む。
「俺らの怒りも晴らさしてもらおうじゃねえか!!!」
意地悪く笑いながら、金髪が浅野をゲンコで殴り倒す。
それを合図に、三人は彼をふくろにした!

「ちょ…!ちょっとやめてよ!!」
走ろうとして、しゃがみ込んでしまう。頭が――痛い…!どうしよう、これじゃ浅野を助けられない。
当の本人はまったくの無抵抗。苦痛に顔を歪ませ、だけど黙って殴られ続けてる。
男なら少しは抵抗しろっての!!――そう思いながら、だけど焦りは募るばかり。
どうしよう、このままじゃ浅野が死んじゃう……!!…と、その時。
「あんたたち何やってんの!?」
スーパー帰りっぽいおばさん数人が、不良三人を咎める。
「うるせえババアがぁ!!ジロジロ見てんじゃねーよ!!!」
奴らは殴るのを止めて、おばさんたちに体を向けた。
すると浅野は突然むくりと起き上がり、すばやくアタシを担いで一目散に逃げ出した!
「あっ!てめえらまちやがれ!!」
当然三人は追いかけてくる。…やばい…!追いつかれそう…!
――んが。追いつくどころか、むしろ奴らとアタシたちの距離は徐々に離れていく。…こいつ、足速っ…!
「へっへーん…。ケイゴ君実は足には自信があるのだったりする!」
自慢げな声が、アタシの体に響く。そこでふと気がついた。アタシ、俵担ぎ…。
「おっ…、降ろしてよ!!」
「わっ、バカ!暴れるなっつの!!おまえあんま動けねんだろ!大体今降ろしたら捕まんじゃん!」
…反論できない。なんだか、凄くむかつく。
「大体なんで殴られっぱなしなのよ!男なら戦えっ!」
「イタッ!こら!髪引っ張んなよ!俺があいつらに勝てるわけねーだろ!大体下手に反抗してあいつらの矛先がおまえに向いたら意味がねーじゃねーか」
それを聞いて、自分の頬が熱くなるのを感じる。なっ…、何言ってんのこいつ…。
「そんなの…!」
アタシが言いかけると同時に、いきなり体が宙に浮いた。そしてどすんとしりもちをついてしまう。
「いったーー!!もう!なんのよ一体!!」
そう言って浅野を見ると。彼は倒れていた。ひゅうひゅうと息を立てながら。
悪寒が走る。
「ちょっと…、浅野!?」
思わず駆け寄る。全身傷だらけだ。…アタシの、せいだ…。
「はぁ、…へへ…、気が、抜けちまった…」
つらそうに浅野が笑う。
「もうすぐアタシの家だから…。お願い、もちょっと頑張って…!」
彼の肩をしっかり掴みながら、アタシは祈るような気持ちでそう言った。

「…はい、おしまい!」
救急箱をかちゃりと閉めてアタシは立ち上がった。
それを直し、冷蔵庫を開きながら、アタシは手当てしたばかりの浅野に尋ねる。
「なんか飲む?」
「ん〜〜、いいわ。口ん中切ってるから」
…そうだった。自分の麦茶をついでアタシは浅野を見やる。
ひどい有様だった。打ち身に打撲。擦り傷内出血。まるでノックアウトされたボクサー。さっきうがいをさせたとき、吐いた水は血で染まっていた。そしてそれは全部アタシのせい。罪悪感が重くのしかかる。
バカじゃないの。あんたアタシより弱いくせに。いつもひょいひょい逃げてるくせに。
プリンあげて、ジャンプあげて、お金まで払って。なんでそこまでしたのよ――…。
なんだか無性に泣きたくなってしまった気持ちをこらえて、アタシは向かいのソファに座った。
しばしの沈黙。その後、浅野がゆっくり口を開いた。
「…おまえさぁー」
「…何よ」
「その…、おまえが強いってのはわかるけどよ、もちっと気をつけろよな。男で、しかも大人数だとさ、やっぱ無理があるんじゃねえか。おまえも一応女なんだし…」
その言葉に何故かかっとなる。
「い・ち・お・う・お・ん・な!!?」
「いや、バリ女……」
引きつった笑みを浮かべて浅野が訂正した。それでもアタシは止まらない。
「そんなこと、言われなくても判ってるわよ!だけど仕方ないじゃない!あっちが先にいちゃもんつけてきたんだから!!アタシは…、アタシはアンタみたいにへこへこしたくなかったの!あんな奴らに頭下げたくなかったのよ!!」
そこまで一気にまくしたてて…、はっとする。アタシ…、なんてこと……。
思わず顔をそらす。…最低だ。浅野は怪我までして助けてくれたのに、アタシはお礼一つ言ってない。こんな事、言うつもりじゃなかったのに…。
重たい沈黙が辺りを支配する。アタシは自分の意地っ張りな部分をとても呪わしく思った。

「そりゃあさ、」
ポツリと、一人ごこちるように浅野が述べる。
「俺はチャドとか一護みたいに強くねえ。有沢にだって、多分かてねえだろな」
言って彼はへへ…と笑い、そして続ける。
「さっきだって、自分が情けない事、解ってる。でもよ……。まあ、なんだほら、その…、…つまりだな。自分の好きな女がピンチだったらなんとしてでも助けたいじゃねえか」
…………はい?
思わず浅野を見る。彼はアタシから目をそらして、顔を赤くしながら続けた。
「だからよー、好きな女がピンチの時は、絶対助けたかったの!!!」
…なんなの、こいつ。何いってんの。
「ヒメが好きって言ってたじゃん」
「そりゃあ可愛い女の子はみんな好きだ!!」
「アタシの事、ぶすってからかってたくせに…」
「だからおまえはだなーー!」
語気を強めて。
「おまえは、特別なの!!」
それを聞いて、アタシはすっくと立ち上がり、つかつかと彼に近寄った。
その様子に気圧されて殴られるとでも思ったのか、浅野は目をつぶって体を縮める。
…あんたアタシをなんだと思ってるのよ…。
アタシは彼の足元にすとんと座り込む。息を思い切り吸って。
三度沈黙。浅野が緊張を解くのを感じて、アタシは思い切って言った。
――思い切って、言ったのに。
「…ごめん…」
口から出たのは弱々しいその一言。
そんな自分が情けなくて――。ぽろぽろと、涙がこぼれた。

「うわっ、何泣いてんだよおまえ!!どーしたんだいきなり!!」
ソファの上で浅野があたふたと慌てふためく。
「なんか、自分がバカみたいで――…。ごめん、ホントはあんなこと言うつもりじゃなかったんだ…。あんたはアタシを助けてくれたのに、アタシはお礼も言わないし…」
それを聞いた浅野が神妙な表情を浮かべる。こいつのこんな顔見るの、初めてだ。
「いや、全っっ然気にしてねえし!!…てか、泣くなよ…」
だめだ、止まらない。何とか抑えようとして、でも、できなくて……。
ふいに、背中に手が回されるのを感じた。浅野の、手――。
そのまま抱き寄せられるのを、アタシは拒まなかった。
「泣くなよ…」
腫れ物を触るみたいに、浅野の手があたしの背を優しくさする。
細身の割に広い胸。体温。鼓動…。
どうしよう、すごく――安心する……。
アタシが泣き止むまで、浅野はずっと、アタシを優しく抱きしめていてくれた。
涙を拭いて、彼を見上げる。視線が、絡まる……。
そのまま、お互い自然に唇を重ねていた。後頭部を撫でられる。もう、痛くない。
鉄のような味がする。ああ、こいつ、口切ってたんだっけ…。
ファーストキスが血の味だなんてね。でも、今はそれも悪くないと思えた。
彼をすごく、愛しいと思った。

「あの…さ、」
しばらくして唇を離すと、浅野がアタシの顔をまじまじと見ながら言った。
「さっきのごめんってやつ…、俺がおまえに好きって言った事に対して…じゃないんだよな?」
アタシは顔を赤くして、そっぽ向きながらこくりと頷いた。…こういうの、苦手…。
浅野は咳払いするように口を手に当てて、斜め上を見上げた。
「やべ…、超予想外…。でもすっげえうれしい」
無邪気にそう笑う彼の姿に、アタシの心音はばくばく高鳴る。
やばい。なんだか、すごく好きみたい…。
今度はアタシからキスをして、浅野の胸に顔をうずめた。頭をこすりつけながらしっかりと浅野に抱きつく。今は、離れたくない…。――と。
いきなりがばりと体を離された。驚くアタシを半眼で見つめながら、浅野は何故か顔を赤くして訴えてくる。
「つーか、これ以上はもう勘弁してくださいっす!!」
え、なに…?と言いながら目線を下げると…。……。
「あんたさー、怪我して弱ってるんじゃなかったのー?」
「いやぁ、やっぱ健全な男子高生なわけだし…」
つまり。…その、ね。初めて見るアタシが分かるくらい、彼のジーパンの中心はぱんぱんだった。思わず顔が赤くなる。…現金な奴め。
アタシは立ち上がって押入れから大きいタオルケットをとりだし、それを浅野の頭上にばさりと広げてかぶせた。
うわっ、何、何!?と慌てふためく彼をよそ目に、あたしもその中にもぐりこむ。
そしてそこから顔を出した時。アタシたちは二人で、タオルケットに包まっていた。
「…いいの?」
「よろしい。」
自分の頬が熱くなるのを感じながら、アタシはぶっきらぼうにそう答える。
「……やべ、こんなことならもうちょっとエロビデオで研究しとけばよかっ…」
「そーゆーことは思ってても口に出すなぁっっ!!!」
最後まで言わせることなく、アタシは浅野の顔面に勢いよくこぶしをめり込ませた……。

カーペットの床に、優しく押し倒される。心臓が、破裂しそう。…どきどきしすぎだ、アタシ。
浅野は顔を赤くして、緊張して泣きそうな情けない顔をしていた。
ねえ、アタシはどんな顔してるの……?
やがて意を決したかのように彼は自分のシャツを手早く脱ぎ、そしてアタシのシャツを脱がせる。
「有沢…」
言ってふと虚空を見上げ、再びアタシを見つめて言い直す。
「たつ、き…」
そして今度は苦笑いをした。
「なんか、照れるなチクショー…。おまえも俺呼ぶ時は名前で呼べよなー」
「う、うん…。!!ん、ん…っ、む…ふう…!」
三回目のキスはすごく激しかった。唇を何度も吸われ、舌がうねうねとあたしの口の中に侵入してくる。
生暖かくて、やわらかい感触。初めて感じる人の唇の温度。…やっぱりちょっと血の味がするけど。
時々歯がカチカチ音を立てる。とにかく離れたくなかった。お互い息もつかずに、夢中で互いの唇をむさぼる。
どれくらいそうしていただろう。やっと唇を離したとき、二人の間に唾液の糸がつと垂れた。
なんだか、すっごいやらしいカンジ。
浅野――…ケイゴの唇は、そのままアタシの首筋をなぞる。
「はぅ…、あ、あん…」
たったそれだけのことなのに、アタシはあられもなく声を上げてしまって。
自分が、自分じゃないみたいだ。
「やべえ…、やっぱおまえかわいいわ…」
そんなこと、今まで言われた事ない。
すごく、すっごくうれしかった。

ケイゴがもどかしそうに、アタシのブラのホックを外す。
形のいい――自分で言うのもなんだけどさ――乳房が、そこからぷるんと顔を出す。…超、恥ずかしい…。
男の人に見せるなんて、もちろん初めてだったんだ。
「おまえ意外と胸おっきんだなー」
とケイゴ。…さっきから一言多いんだよねー。これでも一応Cカップだもんね!
彼はアタシの乳房を、両手でふにふにと揉みほぐす。
「あ…、あっ…」
更に乳輪を撫で回され、乳首を優しく甘噛みされると、感じたことのない快感が電流のように走った。
「ふう…、あん…!はぁ…あん…!ひ…あぁ…ん…!!」
乳首が痛いほどにたつのがわかる。どうしよう、すごく感じちゃう…!
「…いい感じ…?」
手のひらで乳首をこすりながら、ケイゴがアタシにそう呟く。
「あん…、ふ…あっ…、あっ…、う…ん…!!はっ…、いっ…、いい、カンジ…。いっ、言わせないでよ…!、あん…っ!!」
顔を赤くして喘ぐアタシを、ケイゴは何が楽しいのか笑いながら見ていた。
そしてもう片方の手がアタシのズボンを脱がせ……。
彼の手はしばらくアタシの太ももをさまよい、そのままゆっくり、下着の上から割れ目を撫でた。
「ああぁん…っ!!!」
声が一層高くなる。
「…すげ、もう超濡れてる」
…わかってる。さっきから下半身が甘い疼きに震えるのをアタシは感じていた。
でも、そんな事言われると恥ずかしいよ…!

抵抗も出来ずに。アタシは湿った下着をするすると脱がされた。
…だって、気持ちよくって足に力が入らないんだもん。
それに、もっと触って欲しい、そんな思いも正直抱いていた。
「どこがいいのか、教えてよ…」
そうつぶやいて、ケイゴがアタシのソコをゆっくり指でなぞっていく。
膣口より少し上の部分をなぞられた時、アタシの体に電流が走った。
「あっ…あぁん…!!」
ひときわ大きい声を上げてしまった。
「…ここ?」
一度指を止めて、そのあと彼はソコを指で押さえつけるようにこねくり回す。
もう、どうしようもなくじんじんしてしまう。
「あっ!あっ…、やっ…、だめ…!あんまりしたら、あ、…あぁん!!」
指先でソコを弾かれ、あるいは爪先でソコをこすられ、アタシは快感に身を捩じらす。
そのまま指を膣に埋め込まれ、ピストン運動で激しく突かれるとぐちゅぐちゅと卑猥な音がひびいた。
脳みそが、痺れる。やばい、たまんないよ…!
「あん!あん!は…うぅん…!やん…、け、けいごぉ…!!」
不意に内腿に冷たさを感じる。少しだけ上体を上げて見ると、そこはもう、アタシ自身の蜜で洪水だった。
「おまえけっこー、えっち…」
笑いながら、ケイゴが指に絡みついたアタシの蜜を舐める。
アタシはもう、押し寄せる快感が苦しくて…。ケイゴのそんな様子を焦点の定まらない瞳で、ただただぼんやりと見つめる事しか出来なかった。
「てゆうか、いれてもイイ?」
彼が尋ねる。
一瞬心臓がはねる。胸によぎる好奇心と…不安。それでも一つになりたくて、アタシはのろのろと首を縦に振った。
すると彼はジーパンとトランクスを脱ぎ、まっすぐに反りたった薄桃色のそれ――け、けっこうおっきい…――を、アタシの入り口にそっとあてがった。

「痛ぁっ…!!!」
ずぶずぶと入ってくる感覚を覚えながら、アタシは思わず悲鳴を上げる。なにこれ…!超痛いじゃん!
体中から脂汗が吹き出るのがわかる。
アタシはいやいやと首を振りながら、カーペットをぎゅっと握り締めた。こんなに痛いなんて、予想外…!
ケイゴが顔を歪ませながら、アタシの頬をそっと撫でる。
「だいじょぶか…?」
心配かけたくない。折角一つになれたのに、ここで雰囲気壊したくない。そう思ってるんだけど。
体を引き裂かれるような痛みが、腰を動かされるたびにアタシを襲う。
「ひ…っ…!…う…っ…!ん…う…、う…ふぅ…!」
こらえながら、目を閉じて痛みに耐える。
ケイゴもアタシのために、ゆっくりゆっくり腰を動かしてくれた。
…どれくらいそうしていただろう。そのうち、ほんのちょっとずつだけど、痛みと共に気持ちいい感じもしてきた。
指で突かれたときのような、脳に響く快感の予感。
「う…、う…ん…、はん…!あっ…、あん…!あん…!!」
それでね、不思議な事に本当に気持ちよくなってきちゃったんだ…。
「あん…!あん!!あは…ん!ふ…う…ん!!けいごぉ…!!あっ、も…っ、もっと、動いて…!!」
なんて自分から催促してみたりして。アタシもとにかく必死で腰を動かした。結合部分からじゅぷじゅぷと漏れる淫靡な響きが、アタシを一層敏感にさせる。
「う…、た…、たつき、おまえん中、すげ…、気持ちいい…!」
うめくケイゴ。そんな彼をどうしようもなく可愛いと感じる。
ああ、アタシ、なんだか飛んでしまいそう……!
「ふあん…!あん!ああ…っ!け…けいご…!あふ…!あん!あん!あぁん!!アタシ、いっちゃう……!!」
それを聞いた彼が、ものすごい勢いで腰を打ちつけてくる。…もう…だめ…!!!
心臓まで貫かれそうなくらいに突かれ、アタシは全身総毛立つ。頭が真っ白になって…、ああ、イクって…、こういうこと…?
全身で息をつきながら、アタシはケイゴにしがみつく。
その後すぐに彼も果てた。小さく呻いて、半開きになった口を少し震わせながら、恍惚の表情で彼はカーペットに崩れ落ちた。
「たつき…。超好きっス…」
アタシの頭を撫でながら、彼はそういってにこりと笑う。アタシはそんな彼に口付けて。
そのまま二人で眠りに落ちた。

目が覚めると、辺りはもう真っ暗だった。
何時かな、と思いながら顔を上げると、そこには無防備なケイゴの寝顔。
……そーだった。アタシ、こいつと…。
思い出してしまい、思わず顔を赤くする。
――それにしても……。アタシの恋人の条件、アタシより強い人だったのに。
てか、アンタなんか大っ嫌いだったのに。
普段より幾分子供っぽい寝顔。すっと通った鼻。意外と整った顔立ち。
コイツの寝顔を、まさかこんなに愛しいと思う日が来るなんて、ホントに想像もしなかったよ…。あー、ヒメにはなんて伝えようかな。
そんな事を思いながら、ぐっすり寝ているケイゴの鼻をつまむ。
「ふが…」

彼は眉根を寄せて、不愉快そうにそう呻く。
まぁーったく。情けないんだから。ホントにバカみたい。
軽くて、女好きで、弱くてお調子者で、…でも、優しくて、一生懸命。
「仕方ないなぁ、もぉー」
ケイゴのおでこに、アタシのおでこをごつんとぶつけて。思った。
――アンタがピンチの時は、アタシが絶対守ってあげるからね。



そうだね。こういうのも、……悪くないのかもね。



おしまい。




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